『アジを干す』

No.14の旧友Dが所用で出かけた九州から、魚の味醂干しと一夜干しを送ってくれた。それがとても美味しかったので、自分でつくれないものかとやってみた。

送ってもらったものはサバ、イカ、そしてアジだった。そのアジというのが、いつも私が猫に買ってくるものと同じ12〜3pくらいの大きさである。近くの生協では毎週月曜日は百円均一の日で、新鮮な小アジも5〜6匹で1パック百円である。それを5パックほど買ってくる。もちろん人間用に売っているのだから、私も南蛮漬けにしたりして食べている。が、一夜干しや味醂干しにするという発想はなかった。これは愉快、さっそく実行。

まず一夜干しに挑戦。最初に塩をふる。はて、このままでどれくらい置いておくのだろうか。とにかく一晩冷蔵庫に眠らせた。次の日、アジに申し訳ないなと思いながら、エラのところから紐を通した。さて、どうやって干したものか。名案。開くと傘の骨のようなパラソルハンガーを使おう。まずは試しに、等間隔にバランス良く6匹を吊し、ハンガーを庇(ひさし)に掛けた。クルクルと回すとアジの遊園地のようである。

次は味醂干しである。こちらの方が手間どった。小さい出刃包丁で頭を落とし、腹を開いて内蔵を取り出す。開いたアジを塩水で洗ってきれいにし、醤油、砂糖、味醂を煮立たせて冷ましたものの中に漬けた。これも一晩冷蔵庫で眠らせる。翌日、これを大きなザルに敷きつめて並べ、白ゴマをふった。ザルが安定するように紐を十文字に通し、S字フックに掛けて軒下にさげた。これでよし、と。

ここまで何とかやってみたが、「はてさて」は続く。一夜干しとは本当に一夜、つまり一晩干すだけでいいのだろうか。それとも……、と干したアジを見上げて考えていると、猫たちが嗅ぎつけ寄ってきた。同じように見上げてはニャーニャー鳴く。落ちたしずくをペロペロ舐める。はるかちゃん(注、No.6と13参照)は洗濯物干しのパイプに登ろうと、かなり頑張ったが、そのうち諦め遊びに行った。うむ。夜は家の中に取り込んだ方がいいのだろうか。日に当てる方がいいのか、陰干しがいいのか。何もわからない。風に揺れるアジを見上げ考えあぐねた。夜露には晒さない方がいいかと、とりあえず夜更けに取り込み冷蔵庫に入れた。

翌朝、いつもは昼頃に起きてくる私が、朝の八時頃に目覚めた。アジを干さなければ。眠い目をこすりつつ朝日に干す。しばらくすると鴉がカァカァと騒ぎ出す。持って行かれないよう睨みつけ、番をする。仮眠して目覚めると雲行きがあやしい。まあいいかと思って銀行へ出かけたとたんに雨。慌てて帰り、取り入れる。家の中へさげると、猫が狙う。寝る前にはまた冷蔵庫へ。

こんなふうに、鴉、猫、夜露、雨ニモ負ケズ、わが一夜干しと味醂干しは完成した。もちろん無添加、天日干しの一夜干し&味醂干しは絶品であった。その後、試行錯誤をくり返すうち、いろいろなことを習得した。乾きすぎて干物のようになってしまったのは晴天の日に干しすぎたこと、風のない曇りの日に干したものは少し生臭くなってしまうこと等々。

味醂干しは多少の手間と時間がかかるが、軽く塩をきかしただけの一夜干しであれば簡単な方法を見つけた。つまり、1.新鮮なアジを買う。2.塩をふり、しばらく置く。3.小物ハンガーの洗濯ばさみで尾をはさんで吊す。晴天なら本当に一日で、曇りの日なら二日ほどで出来あがる。簡単きわまりない。安く、手軽で、美味しく、楽しい。どうぞお試しあれ。

今日もわが右近庵の庇には、アジがゆらゆら揺れている。本日も晴天なり。



2003年3月

軒下に揺れるアジ
前のひとり言 次のひとり言

ひとり言 INDEXへ