『真っ直ぐ病』

私にはものを真っ直ぐに並べる癖がある。
タテに並べるのが大好きだが、それが無理なら真ヨコである。とにかくタテかヨコの真っ直ぐでなければならないのだ。

書きもの机の上にはいろいろなものが載っているが、それらはすべてタテに並んでいる。鉛筆、万年筆、修正ペン、定規、鋏から虫メガネ、消しゴムまでタテ長に真っ直ぐ置かれている。居間のテーブルにはリモコン、ティッシュの箱、ビデオテープ、郵便物。歪んで置かれているものはない。台所の食卓の上はもっと極端だ。ソース、しょうゆ、食塩、胡椒、七味などが背の低いものを先頭に一直線に整列している。さっき使ったラップの箱も、カフェオレを混ぜたスプーンも、真っ直ぐタテに置いてある。目玉焼きを食べた箸は、当然真ヨコに寝ている。すべてのものが席に着く私の体に対して垂直か平行でなければならない。斜めになっているものが目に入れば直さずにはいられない。こんなおかしな癖が、いつごろついたのかは定かでない。

この『真っ直ぐ病』は年々ひどくなり、日常生活や人間関係に支障をきたすまでになってきた。たとえば誰かと飲食する時である。その人が食器や水のグラスやハンカチを無秩序にテーブルに置くと、気になって仕方がないのだ。直したくてウズウズする。秩序から大きく外れたものたちから目が離せず、ついには相手の話もうわの空で聞かなければならなくなる。こんなことでは申し訳ないと思いながら、どうすることもできず、いまだにこの性癖を人に打ち明けられずにいる。

ところが同病を持つ御仁に遭遇できた。「百鬼園」の主、かの内田百(ひゃっけん)先生である。「蜻蛉(トンボ)玉」という小編の主人公「私」に言わせている。「一番いやなのは、物の曲がっている事です。何でもちゃんと真直ぐになっていないと、面白くない。人が訪ねて来て、煙草を吸う時、燐寸を擦った後の函を、ちゃんともとの通り真直ぐに置いてくれないと、気にかかる。」結局「私」は自分の手で置き直す。マッチの擦りかすや巻煙草の吸殻も、灰皿の中で頭を同じ方向に向けていないと困る。「私」はどうにかして相手の隙をねらい、あるいは口実を設けて必ず置き直さなければ気がすまないのである。

長い付き合いのL君(名前から、彼も「タテヨコ真っ直ぐ病」か?)という友達は「私」をよく理解し、敷いている座布団を畳の目から狂わせない。特に「私」がうれしく思っていることは、よく鼻をかむL君は、まず紙を二つに折って鼻をかみ、次に縁を揃えてまた二つに折り、四つ折りにしてかむ。それでも済まない時は、きちんとそれを八つ折りにしてかむ。だらしのない人がする様に、くちゃくちゃに揉んで、くんくん鼻を拭いて済ますようなことは決してないといって安心するのだ。

いかにも百(ひゃっけん)らしいが、ここまでくれば重症である。しかし私もこれに近づきつつある。真っ直ぐ病は、もしや頑固病ではあるまいか。改善しようと思うそばから手が伸びて、眠っている猫たちを無理やり整列させてしまっている。
2003年1月
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