『水無月右近という名前』

詩を書くのは昔から好きだったが、数年前から精力的に書くようになった。詩が手元にたまってくると、どこかへ投稿してみたくなった。ある詩のサークルに参加し同人誌に載せてもらい嬉しかった。けれども私は生来協調性がない。人間関係がじきに煩わしくなり辞めてしまった。しかし発表はしたい。そこで、ちょうどその頃知った虎井まさ衛氏主宰のミニコミ誌「FTM日本」の「めいるぼっくす」というコーナーに、毎回掲載してもらうことにした。その時から詩のペンネームとして「水無月右近」を使うようになった。

なぜ水無月右近かというと、これも五年ほど前の話になる。いつもジーンズでラフな格好の私が、一張羅の紺のスーツに身を包み、ある女性と踊ったことがある。女性はたちまちスーツ姿の私に恋をしてしまった。そしてまたジーンズに戻った私に訊いたのだ。
「あのお方は、どなた様だったのでしょうか」
「水無月右近だ」
とっさに口から出たのだ。(ちなみに女性は「ジョージだ」「リチャードだ」という洋風の名前を期待していたらしい)それ以来、そのスーツを着ると女性は私を右近さんと呼ぶようになった。

さらに掘り下げて考えてみよう。なぜ「水無月」か?私は雨が大好きで、乾燥が防げるので体調が良い。六月は私にとって最も好ましい月なのだ。なぜ「右近」か?若手歌舞伎俳優に市川右近という方がいるが、いい役者だと思っている。また、家に入った不動産屋のチラシで、この地区の担当者が右近さんという姓であると知った。姓も名もあるのだと妙に感心したことがある。それが頭の隅にでも残っていたのだろうか、水無月と右近がドッキングし、冗談で思わず口から出た名前がこれだった。

しかし水無月右近は既に存在していたのだ。あの白戸三平氏の「カムイ伝」の登場人物のひとりだというではないか。ホームページを開設するにあたり、私は初めてそれを知った。これは青天の霹靂である。私は「カムイ伝」も「カムイ外伝」も読んだことがないが、とにかく向こうの方が昔から世に知られた有名人である。しかもやたらカッコイイ奴だという。そんなこととはつゆ知らず、能天気に堂々と名乗っていたとは恥ずかしいかぎりだ。

だがものは考えようである。本物の存在を知らずに名乗っていたのだ。これは何かの縁ではないか。ここは一つ居直ってみよう。私ごとき素人が、既存の人気キャラクターと同名を名乗ったとて、白戸三平氏は片腹痛いわいと許してくださるにちがいない。そう思いつつも、いつかお叱りを受けるのではないかと密かに脅え、落ち着かない日々である。その場合は水無月‘左近’で許してもらえないものか。

ともあれ近々本屋に出向き、元祖水無月右近殿に対面してこようかと思っている。
2002.12
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