「〈自分に自信のない〉君へ」

「自分に自信がないんです」という言葉を口にする君、今日は君と話をしよう。

そもそも〈自分に自信〉とは何か。これは極めて漠然とした云い方であり意味が曖昧だ。「自信がある」という言葉は、「僕は料理に自信がある」だとか「私は車の運転なら自信がある」というように、何か例を挙げて用いるのが自然な使い方だ。「僕は自分に自信があります」と誰かが云えば私は訊くだろう。「自信があるのは分かった。で君は、君のどんなところに自信があるんだい?」。

まわり道をしたが、要するに、自分に自信があるとかないとかいうことを論じること自体が机上の空論になりそうな案件なのだ。したがって、もっと具体的なことがらについて話をしよう。〈自分に自信がない〉というならば、いったい君が自分のどんなところに自信がないのかを見極めることが大切だ。次にどうすればその部分の自信のなさを克服することができるかを一緒に考えよう。

君が悩んでいるのは対人関係のことだったね。人と付き合うのがとても苦手であると云っていた。君に限らず最近は人との摩擦を極力避けて通ろうとする若者がふえている。中途半端で曖昧な言い回しが流行するのもその一つの現れであると云われている。しかし、君のように人と衝突するのが嫌だから適当に身をかわすというやり方を続けているうちは、今後も君は心から付き合える人に巡り会うことができない。適当にしか人と接しない人間には、適当にしか付き合わない人間しか与えられない。まず君から心を開くことだ。

職場の上司がどうしても好きになれないということだが、無理に好きになる必要はない。人間には誰しも好悪(こうお)があるのは当然のことだ。ものを云えば嫌味ばかりという人間はどこにでもいる。そんな人はきっと淋しい人なのだ。君の方が大人になれ。好悪はともかく職業人である以上、君は働かなければならない。これに耐えることができたなら、その上司にも感謝しなければならない時が来る。君はきっと逞しくなり、これまでのように悩むことなく人間関係に自信が芽生えているであろうから。

次に「能力」や「評価」について話そうか。君は一生懸命やっているのに少しも評価されていないと嘆く。適当に手を抜いている調子のよい人が褒めそやされ、過大評価されるのが腹立たしいと云う。いったいぜんたい君はなぜ人のことが気になるのだ。調子のよい人間も、手を抜く人間も、所詮はそれだけの人間だ。見る人が見れば、すべてお見通しなのだ。そのような処世術を身につけた者が、それを駆使したところでたかが知れているものだと教えておこう。

それより問題は君自身のことだ。君の話をよく聞くと、君がその人を妬んでいるのだと分かる。仕事は自分の方が正確で早いのに、その人ばかりがチヤホヤされて不本意だという。君がその人に仕事で勝っていると分かっているなら、職業上の能力は君の方が上なのだ。そのことに大いに自信を持て。それなのに賃金で差がつけられていたとしたら訴えればよい。そうでなければ人を妬むことは虚しいことだ。君はただ、するべきことを淡々と、一生懸命にやればよい。そうすれば君への評価は知らないうちに高まっているはずだ。

その人は美人で性格が明るく、いつも輪の中心にいるのだと君は云う。それがどうしたのだ。そういう人もどこにでもいるし、ムードメーカーは集団に必要だ。その人のように君もなりたいならそうなる努力をすればよい。けれども容貌や性格は、そうそう変えられるものでもなければ変える必要もない。外見が美しいことが心のなかまで美しいとはかぎらない。美しさの基準も人によって違うものだ。無理に明るい性格を装えば、かならずどこかに歪みがくる。君には自分で見えていない君のよさがある。人のことを羨んでいるうちは、君は哀れな人でしかない。君は君なのだ。

対人関係、能力と評価、容貌と性格について簡単だが私の考えを述べた。ここで君に言葉について伝えておきたい。

私たち人間は言葉という貴重な財産を祖先から受け継いだ。人類に急成長をとげさせたのは言語の発達にほかならない。言語を通じ、私たちは互いの意思の疎通をはかるのだ。君はそのことを充分に活用しているのだろうか。「言っても仕方がない」「黙ってしまう」、それでは人に理解してもらえない。認めてもらいたいというのなら、「思っていることをどう伝えればいいのか分からない」などと云わず、自分の言葉を持たなければならない。

では、自分の言葉を持つにはどうすればよいのだろう。感情を整理する方法や、考えていることや感じていることを適確に伝えるため、君はもっと言葉を知り、思考力を養うべきなのだ。云うまでもなく、それは読書によって培われる。幸い君は読書が嫌いではないということだから、面白そうだと思う本を手あたりしだい読めばよい。面白くない本は途中で放り出してもよい。人も本も出会いなのだ。気の合うものを選んで友とすれば心強い。

読書は君に多くのものを与えてくれる。思考力、マイナス感情に対する抑止力、知識、やわらかな感性、思いやり、等々。これらは金では買えず、一朝一夕で身につくものではない。豊富な言葉を持つことや柔軟な考え方ができることは、君を前向きな人間に変えるはずだ。言葉で感情を整理し、それを言葉で伝えるために本を読め。頼りになるものは、いつも知力と体力なのだ。

それから、君は自分が嫌いだというが自分を愛せ。すべてにおいて自分を磨け。かけがえのない自分の顔、身体、能力、性格など、すべてを愛せ。そして人に愛されないと嘆く前に、君はまず、自分を愛さなければならない。自分を愛せない者には、人を愛することも愛されることもできない。否定的な言葉をこぼさず、まず動け。身体を鍛えろ。本を読め。そうすれば、いつのまにか君は〈自信のある〉部分をたくさん身につけた人になっているだろう。

自信とは、これだけのことをやったのだという努力に裏打ちされ、自然に備わってゆくものだ。愚痴をこぼしたり嘆いたりするのはほどほどに。動け。読め。君はきっと輝きはじめる。わかったね。
2004年5月


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