「長崎は今日も寒かった(その一)」

また長崎へ行ってきた。ランタンフェスティバルという中華街の春節祭を見物するのが主な目的であった。それから、前回には果たせなかった“坂をおもいきり歩くこと”も目的のひとつであった。

JAS機のエンジントラブルによる総点検で、予約した便が運航されるかどうかは当日にならなければわからないと説明されヤキモキした。その便の前日にあたる最終便は運航確定とのことで、急きょ一日くり上げて出発することになった。おりしも大陸からの寒気団が南下し、全国的に冷え込みはじめていた。特に日本海側はスッポリと寒波に覆われつつあった。右近庵も庭は真っ白であった。準備をしながら天気予報を見ていると、“明日の長崎は最低気温−6度、最高気温6度”と出ている。ウソだろ。私は南へ行くのだという考えを捨て、“青森装備”で臨むことにした。

雪の舞う右近庵をあとにして難波の空港バスのりばへと向かい、5時5分伊丹発の便で約一時間後に長崎空港に着いた。ロビーのテレビではニュースが流れ、当地としては記録的な低温と降雪であると伝えていた。画面には雪化粧の街並みや、吹雪のなかを背を丸めて足早に歩く人びとの様子が映し出されていた。ここは青森か?いや長崎のはずだ。なぜなら“ちゃんぽん”や“皿うどん”の文字が目に飛び込んでくるではないか。それに“長崎灯會”と書かれた赤い提灯が歓迎してくれているではないか。この底冷えは真冬に青森空港に降り立った時のものと似ているが、やはりここは長崎なのだ。

長崎バスで新地ターミナルまで行く間、窓から見る街には雪らしきものは見えなかった。すっかり暮れた街は雨上がりのように道路が濡れているだけであった。ホラやっぱり大丈夫だ。そう思い込んだが甘かった。それは第一弾の雪が溶けたばかりの夜の街であったのだ。その時まだこの旅が寒波に迎えられ同行され、見送られる旅となることは考えもつかないことであった。バスターミナル横のホテルに荷物を置くとすぐ、隣接の中華街へ出かけた。時刻は午後7時半を回っていた。夜であるためか平日であるためか、はたまたこの寒さのためか中華街は閑散としていた。店を閉めかけている飲食店もある。こりゃ大変だ。どこかへ入って夕食をとらねば。中華料理店というのは表から見れば店の中がよく見えず、薄暗くさえ見える店もあるので営業しているのかどうかわかりにくい時がある。それで扉を大きく開放している店へ入った。二ヶ月前に皿うどんを食べた店である。今度は“ちゃんぽん”を注文することにした。

私は麺類もパスタもみな細いものが好きである。そして“ラーメン”も“うどん”もアッサリしたものが好きなのだ。だからちゃんぽんは好みではないだろうと前回の訪問では食べなかった。しかし二度も長崎を訪れて食べないテはない。そこで「よし、挑戦するぞ」になったのだ。ほどなくして湯気の上がったちゃんぽんがテーブルに置かれた。寒い時には温かいものは何よりのご馳走である。まずおもむろにレンゲでスープをすくって飲んでみた。「おいしいっ!」と叫ぶところであった。コテコテかなと思っていたスープは鶏ガラスープでアッサリしている。しかもコクがある。ヘビイかなと思っていた麺は太さが気にならず、中華の麺独特のカンスイ臭さがない。それもそのはず、この店の味の秘決は麺をスープで煮込む時にあるのだという。具もほどよい量が載っている。もちろんトレードマークの“ピンクのカマボコ”が鮮やかで華やかである。「美味」のひと言であった。おいしいワケである。その店は持っていたガイドブックにも地元タウン誌の“ちゃんぽんのうまい店50店”にも出ている。納得。

中華街の南にある湊公園まで行くと目を見はった。そこかしこに灯りをともされたモニュメントが飾られている。大きな孫悟空に龍や虎、獅子、それになぜかシマウマや水牛などの普通の動物までもある。高い所には赤い色の提灯が無数にさがり、とても明るくてきれいであった。公園の両側には出店が並び、見なれない、聞きなれないものを売っている。ちゃんぽんを食べたばかりであったが、もの珍しさから何か買って味わってみようと店を物色した。うむ。中華街の祭りであるから当然それらしい食べものが並ぶ。長崎の出店のオーナーたちは、もの静かで品がある。前を通っても客にあまり声をかけない。大阪ではテキ屋のおっちゃんや兄ちゃんの呼び込みはケタタマしい。大阪人は客もカシマしい。祭りとなると売り手も買い手もやかましいほど声高になる。だから静かすぎてチョット不思議な感じがした。

出店の食べ物には次のようなものがあった。

★中華
○角煮包〔“角煮パオ”または“角煮まん”と読む。ふんわりしたパオに豚肉の角煮(東坡肉・トンポーロ)の厚切りがはさんである〕
○鰻包〔(うなパオ)同じくパオに炭火焼のうなぎがはさんである〕
○ハトシ〔卓袱(しっぽく)・中華でおなじみの長崎名物。エビのすり身やミンチ肉をパンにはさんで揚げたもの。これは右近一番のオススメだ〕
○中華ちまき〔よく知られた中華風のもち米入り五目飯を竹の皮で三角に包み蒸したもの〕

★中国菓子
○月餅〔くるみなどの木の実入りあんが入ったおなじみの饅頭〕
○よりより〔小麦粉をねじって揚げたもの〕
○金銭餅〔古代のお金をかたどった中国クッキー〕
○マーラカオ〔栗の入った中国風蒸しカステラ。チョコレート風味のマーブルタイプもある。蒸しながら売っている〕

★その他
○かんころ餅〔さつまいもの餅につぶあんが入っている。蒸してアツアツで食べる〕
○梅ヶ枝餅〔中にあんこが入っている焼き餅。太宰府天満宮ゆかりの餅とか〕
○ちくわ〔ちくわを縦半分に割ったものにカレー味のガッチリした衣をつけ揚げたもの〕
あとは“ソーセージ”“焼きとり”“たこ焼”などである。特筆すべきは“たこ焼”である。大阪に住む私が長崎でも食べてみたのは、どんなふうに違うのか興味があったからだ。“長崎風”とあってはぜひ食べてみなければ。ハフハフ言いながら一個食べてみると、なるほどと思う。さっき食べたばかりの“ちゃんぽん”のような味がするのだ。おそらく中華スープで小麦粉を溶いているのだろう。中にはタコのほかキャベツが入っている。わざと芯の固いところを使っているのかコリコリとした歯ごたえが良い。これはこれでおいしいものだ。“長崎風”に納得した。

中華街のみやげもの屋を楽しんだあと、また思案橋方面へ出かけた。それにしても橋がないのになぜ思案橋という地名がついているのかは謎のままである。ぶらぷら歩いているとメインストリートに出た。目抜き通りである観光通り近くのアーケードにはランタンがさげられている。ランタンコンテストに出品した小・中・高生の作品もずいぶんさがっていた。通りの真ん中には点灯されたモニュメントがところどころに置かれて明るくきれいだ。それらの明かりは午後10時までともされている。見上げながら歩いていると明かりが消えた。

とても寒かったので熱燗でもと思ったが、次の日から精力的に歩くつもりでいたので酒はやめにした。かわりにホワイトモカチョコレートを飲んだ。冷えた身体に温かい甘さがしみわたったところで、ホテルに戻ることにした。

※長崎ランタンフェスティバル実行委員会のHPは
http://www.nagasaki-lantern.com

2004年1月
アーケードにさげられたみごとなランタン
その年の干支はモニュメントの主役

前のひとり言 次のひとり言

ひとり言 INDEXへ