「長崎は今日も寒かった(その三)」

朝から寒風のなかをよく歩いた。しかし疲れは特に感じていなかった。部屋で熱い茶を飲み、“カステラの切れはし”を食べた。この“切れはし”は、1〜2cmの厚さのカステラが長いまま4〜5枚かさねて袋に入れて売られている。その組み合わせはさまざまで、チョコや抹茶が含まれているものなど中味は好みで選べる。これが300円と安く美味である。地元の友人は、これしか買わないと言っていた。なるほど。味は同じ、これはお買得である。但し、“老舗”はこれを置いていない。

ひと息ついたところで、ホテル裏手の中華街へ出かけた。午後5時に“皇帝パレード”が湊公園に到着するのを見るためである。中華街は寒さもなんのその、大勢の人で賑っていた。パレードが到着するあたりの沿道には人びとがカメラやケイタイを準備して構えている。しばらくして鉦や太鼓の音が聞こえてきた。行列が近づいてきたことを知り、群集はざわめき一斉に背のびをした。私も負けずに背のびをし、カメラを構えた。

黒っぽい衣装を身につけ、帽子を被った神妙な顔つきの男性たちに続き、同じく中国服の可愛い子どもたちが前を通った。そのあとに“皇帝”の到着である。そのいでたちは、映画“ラストエンペラー”を思い出させる。皇帝は輿に乗っておられたので、後で見ていた私にもお姿がはっきりと見えた。カシャッ、ジー。こちらを向かれた時のシャッターチャンスを逃さずに写すことができた。と、その時、「今年も頑張れよぉ、杉内!」。なるほど、どおりで見たことのあるような顔だと思ったワケだ。その日の皇帝は、ダイエーホークスの若きホープ、杉内選手であった。

パレードを見送ったあと、カステラの老舗「mサ屋」へ向かうことにした。支店はあちこちにあるが、本店の店構えをこの目で見たかったからだ。思案橋電停からすぐの船大工町というところに本店はある。“カステラ本家 mサ屋”の長暖簾を両側に、コウモリを染め抜いた紫の暖簾がかかっている。建物自体が歴史を感じさせる。中へ入ると店員さん達は皆ていねいにお辞儀をし、接客の丁寧さは恐縮するほどである。店の奥にある陳列ケースには、美しいギヤマンのグラスが飾ってある。ガラス細工の雛道具もある。それらはすべて年代もので、当時も今も貴重なものである。創業1624年(寛永元年)、mサ屋は名実ともにカステラの老舗である。

カステラの入った黄色い紙袋をさげ、別の祭り会場へ行ってみることにした。祭り期間中は七ヶ所の会場でイベントが行われるが、湊公園と中央公園の二大会場間の移動は、街に提げられた“逆さ福”のランタンを目印に移動すればよい。このランタンには“福”という字が逆さまに書かれているが、それは天から福が降ってくるのだとも、福の字を“倒(タオ)”し、福が“到(タオ)”(来る)のだとも云われている。昨年11月に訪れた時にも感じたが、この街は、いたるところに来訪者への思いやりがあふれている。さすが長崎、愛される観光の街として行き届いている。

イベントは各会場でメジロ押しである。中国獅子舞、中国雑技、胡弓演奏、龍踊り、琉球國祭り太鼓エイサー、太極拳などのほか、子どもたちによる龍踊りやクーニャンダンスもある。皇帝パレードは土曜日にしかなく、見ることができて幸運であった。中央公園に着いた時には、留学生であるという美しい女性による胡弓の演奏がおこなわれていた。はじめはコーヒーを飲んだりハトシを食べたりと忙しかったが、胡弓の音色の美しさに惹かれ、飲み食いをやめて聴き入った。日本人へのサービスか、演奏曲には“ふるさと”や“世界で一つだけの花”もあった。

席は満席で立っているのも寒いので、雑技やエイサーは観ずに午後8時からの“龍踊り”まで街をぶらつくことにした。私は旅先で観光地を歩くのも好きだが、何げない通りを歩いてその土地の人びとの生活を感じるのが好きである。中央公園を出ると築町市場がある。夜のことであるから大半の店は閉まっているが、祭り期間中とあってか人々で通りは賑っている。ちょっとした人だかりがしている店があったので立ち止まると天プラ屋さんである。(衣をつけて揚げるのではなく、魚のすり身を揚げる“練りもの”の方)揚げるそばから紙に包んでアツアツをハンバーガーのようにテイクアウトできる。コレに目がない私、イワシ天、ジャコ天に舌鼓を打った。味もさることながら、そのプリプリした弾力感たるや出会ったことのない歯ごたえである。美味なり。ノラ猫嬢たちにもおスソ分けした。(私は一目で猫の性別がわかる)

あちこち歩きまわって再び中央公園へと向かっていると、後の方が騒がしい。振り返ると、なんと龍踊りの龍も会場へと向かっているではないか。人びとは歓声とともに道をあけたり、急いでそのあとを走って追いかけたりした。私も少し追いかけ気味に脚を早めた。会場は待ちかねる人びとでいっぱいであった。公園の入口近辺で“龍踊会”のメンバーは、緊張気味に待機していたが、ステージで司会者の女性が紹介すると勢いよく会場へとなだれ込んだ。

龍踊りは十名程度の人により、勇壮な太鼓に合わせて演じられる。龍は長い躯をうねらせ、ステージをところ狭しと動きまわる。テレビでは見たことがあるものの、間近に目にするのは初めてであったから、チョットした感動である。簡単そうに見えるが、息の合った動きは練習の賜物であるのだと思う。それが証拠に観客が参加して演じてみたがウマくいかない。なんなく支えているように見えるが頭部は優に10kg以上はあるとか。それを巧みに動かし、速いスピードで駆け回らなければならない。長崎では龍踊り会がいくつかあり、しっかりと伝統を支えているのだ。

龍がひとしきり踊ったあと、サッと引っ込むと司会者が言った。こんな時、皆さんなら言う言葉は決まってますね。すると観衆が一斉に叫んだ。「持ってこぉーい!」。長崎では、もう一度出てきて欲しい時、そんなふうに言うのだそうだ。では、“さだまさし”のコンサートなどでも“アンコール”の代りにそう言うのだろうか。観客の「持ってこぉーい」のアンコールに、龍は何度もステージから公園の内外へと駆け回って楽しませてくれた。

龍踊りを見終わったあと、熱燗で温まりたくなった。友人に一度案内してもらったことがある居酒屋へ行くことにした。その日も皆が寒さを話題にしているのを耳にするほど、長崎としては尋常でない冷え込みようであった。ときおり雪がちらつき、風がそれらを吹き飛ばした。本当に寒い夜であった。

「きゃべつ」という店は浜町にある。魚を中心とした食べ物がおいしいことで知られた店だが、あいにく私は祭りで年甲斐もなく買い食いをしすぎたため、腹がすいていなかった。そんな時には豆腐と決めている。湯豆腐と熱燗で冷えきった身体はジンワリと温まった。その店の湯豆腐はダシ汁が濃く、全部すくって飲んでしまったほどに旨かった。う〜ん、幸せ。

この旅の2日めは充実した一日であった。そのことに満足し、ほろ酔いの上機嫌でホテルへの道を歩いていた。
2004年2月
ランタンフェスティバル湊公園会場

皇帝パレードの“皇帝”(ダイエーホークス杉内選手)

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