女が故郷を捨てて私の許へやって来たのは三年前の今頃で、妻を
亡くしていくらも経たないときのことだった。本を読んで感動した
といい、出版社を通じて私に手紙をよこしたのだ。百ヶ日を過ぎて
も心に空洞ができたまま、私は腑抜けのようになって暮していた。
そんなときにファンから手紙をもらったことは私の気持ちを明るく
し、すぐに手紙をしたためて礼を述べた。そのときに、ついつい妻
を亡くして気落ちしているが、頑張るなどと書いてしまったのだ。
それから約一ヶ月後、古くさい旅行鞄をひとつ提げ、白い花束を持
って女は玄関に現れた。よろしければ身の回りの世話をさせてくだ
さいと遠慮がちに言うのだった。
 夜も更けていた。とりあえず家へ招き入れ、額にうっすら汗をう
かべていた女に冷えた麦茶を出した。女はガラスコップに口をつけ
るより先に仏壇に向かい、花を脇へ置くと線香をあげた。妻の遺影
を見上げ、小声で経を唱えながら数珠をこすり合わせてしばらく拝
んだ。
 麦茶を飲んだあと、菓子には手をつけず、女はエプロンをかけて
働き始めた。夕飯のあと、流しにそのままにしていた食器を洗って
片付け、ゴミの日はいつかと訊いた。妻が柱に貼ったメモによると、
翌日が粗大ゴミの回収日だった。出さなければ。私は黄緑色の古ぼ
けた電子レンジに目を遣った。
 新婚時代から妻が使っていた旧式の電子レンジは、妻が逝った数
日後、大きな音をたて、それっきり動かなくなった。妻の料理や熱
燗がクルクルと回っていたドアの内側は、二度と明るくならなかっ
た。私はレンジを棚から下ろし、汚れを丁寧に拭き取った。拭きな
がら、手を止めて、不意に込み上げて慟哭した。思えばそれが妻を
亡くして最初の号泣だった。妻の亡骸のように思えた古い電子レン
ジを抱きかかえ、私は人知れず激しく泣いたのだ。そのレンジを処
分しなければならなかった。
 「このレンジを」と言いかけると、女は「わかりました」とすぐ
さまレンジを担ごうとした。女には私の感傷が伝わる筈もなく、翌
月の回収日まで、何となれば気が済むまで置いておこうかという私
の迷いをよそに、もう彼女はレンジを持ち上げていた。
「無理だよ」と言う私を振り切って、小柄な女は軽々と重いレンジ
を玄関まで運んでしまった。「一人で大丈夫です」と女は言い、ま

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