たレンジを持ち上げた。呆気にとられた私はドアを開けて彼女とレ
ンジが外へ出るのを手助けし、ゴミ集積所へ向かう後姿を見送るし
かなかった。
 降って沸いたような女の出現に、少なからず私は戸惑った。けれ
ども寂しさで気が狂いそうだった私には、女の姿が観音のように見
えたものだ。その夜に女を抱いてしまったかどうかは憶えていない。
翌日、私は女のために部屋を探し、そこに住まわせることになった。

 ライターと花火の束を女が、ローソクと蚊とり線香を私が持って
庭へ出ようとしたとき、急に雨が降りだした。廂を叩く雨音は大き
く響き、レンガタイルに急速にふえていく跡は大粒の雨だった。女
も私もすっかりその気になっていたのに、出鼻をくじかれた形にな
った。
「ついてないな」
 ガラス戸を開け、恨めしく闇夜の雨空を見上げて私は言った。き
っと女が、また今度にしようと慰めるのかと思えば、暗い空か庭の
あたりを黙って見つめているだけだった。
「よし、廂の下でするぞ」
「はい」
 女の声は弾んでいた。履物に足を入れ、私より先に庭へ出た。ひ
とかたまりに群れていたノラ猫たちが驚いて跳ねのき、散り散りに
走って逃げていった。
 私も庭へ降り、軒下にしゃがんで蚊とり線香に火をつけた。雨だ
というのに、何匹もの蚊が私たちを狙っていた。いっそう雨はひど
くなり、頭上にある透明な廂をばたばたと(せわ)しなく叩き続けていた。
 女が黄色いローソクに火をつけた。それは花火とともに袋に入っ
ていたもので、仏壇用のではなく、誕生日やクリスマスケーキに付
いている捻ったようなローソクだった。何度か風に吹き消されそう
になった炎は、すんでのところで消えずにとどまり、ゆらゆら揺れ
た。
 女が花火を一本差し出した。穏やかに微笑んでいた。めったに見
せない表情に、花火大会を雨天決行にしてよかったと、私の頬もゆ
るんだ。

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