顔を上げて女を見ると、女の顔は花火に映え、闇の中で晴れやかだっ
た。
「きれい……」
 女は、とても女らしく言った。いつもの無機質な声ではなく、め
ずらしく感情をこめて言った。女のことを、愛しく思った。
 私たちは代わるがわるローソクの炎に花火をかざし、赤や青や緑
の火が威勢よく噴き出すたびに歓声を上げた。いい年をした男女が
子どもの花火に興じる様を、呆れて見ているのは生垣の下から遠巻
きに眺める猫たちよりほか誰も無かった。目をしばたかせて見てい
たかれらも、いつのまにか居なくなった。
 夏とも言えず、秋とも言えない九月の初め、雨の夜に、山しか見
えない私の庭で、女と私は子どもに返った。世間から隔離されたよ
うな空間で、雨が木々や草花を濡らす音と廂を打つ音と、それから
花火が火を噴く音と。それだけしか耳に入ってこなかった。女は今、
何を想っているのだろうか。
 つけたばかりの花火を手に、突如私は雨の中へ駆け出した。花火
を持つ腕を、ぐるぐる大きく回しながら、濡れた芝生を駆け回った。
消えるまで走り続けてやるぞ。私は五、六歳の男児になっていた。
女は自分の手で燃える花火を見ずに、私の動きを目で追っていた。
 不覚にも涙がにじみ、ひと粒あふれて目尻から伝う。
 幸い雨、雨だった。













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