に、私たちの花火あそびの最後は線香花火と決まっていた。去年も
一昨年(おととし)もそうだった
 ほかの花火のときよりも、線香花火に火をつけるのは女も私も慎
重だった。先端ではなく途中からついたりしないように、ローソク
の炎が移ってしまって一瞬で燃え尽きてしまわないように、私も女
も真剣な眼差しになった。持った右手が動かないように、指が震え
ないように、黒い火薬の先に小さな火をつけた。
 ぢぢぢ、ぢぢぢと音をたて、線香花火が咲いた。大きく咲き、小
さく咲き、終わったかと見つめていると、火の玉からまた花が咲く。
 女も私も何も言わない。女の花火と私の花火を交互に見つめ、女
の方が長く咲くようにと願う。女は私のが長く咲くようにと願って
いるに違いない。同時に終わればいいのにと、きっと二人とも願っ
ている。女と私は初恋を覚えた少年少女になっていた。
 九月の雨の夜、廂の下で小さな火花を咲かせる線香花火。まだ咲
くぞと私と女は、それぞれの持つ花火の先の火の玉が、むずむず動
くのをじっと見ていた。落ちるなよ。まだ落ちるなよ。この紅い火
のしずくが落ちるまでに、まだ私にはすることがある。書かなけれ
ば。恋とか愛とかそんなことはどうでもよく、この女のために長く
生きて書かなければ。それは多分、女が歓ぶことであろうから。
 女が帰ったあと、ほのぼのとしたものに包まれていた。この夜、
女は目を細め、三度ばかり「おいしい」と言った。それから花火を
楽しんだ。ただそれだけのことに、今日はいい日だったと小さな幸
せを感じていた。そろそろ籍を入れたいと、女に話してみようか。
 ふたたび夜の庭を見に行くと、いつのまにか雨は上がり、秋の虫
がしきりに鳴いていた。

                           (完)




縊死(いし) …… 首をくくって死ぬこと。
悋気
(りんき)…… ねたむこと。嫉妬。
修羅
(しゅら)…… 闘い。

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