会いたくて


あなたの笑顔に会いたくて
凍てつく深夜に訪れた
原稿用紙を小脇に抱え
くわえタバコでガラスの扉を片手で引いた

あなたの笑顔が待っていた
照れ笑いしてタバコをもみ消し
私は黙って禁煙席の方を指さす
笑顔と一緒に出てくるビール
そしてほうれんそうと きのこのソテー
カウンターでひとり飲る

クサしやがってあんちくしょう
文学のブの字もわからんくせして
今に見てろよ ちくしょうめ
原稿用紙を破ろうとして手を止めた

顔をあげるとあなたの笑顔
客の私へ向けたものだとわかっていても
それが見たくて夜道を飛ばしてやって来た
こんな時は友もいらない女もいらない
あなたの笑顔だけでいい

凍える体ほんわりビールに温められて
凍える心じんわりあなたに暖められて
外はしんしん冷え込んで
時刻はやがて午前二時
レストランCASAはそろそろ閉店

「遅くまで邪魔をしました」
ほろ酔いニヒルな男の振りをして
タバコに火を点け
「じゃ」と背中でガラスの扉を押して出て行く

会いたくて
あなたの笑顔に会いたくて
またいつの日か会いたくて
もう一度だけ会いたくて

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