メバル


ぼくの具合が悪くなると
おまえはメバルを買ってくる
それがあたかも
持病の特効薬でもあるかのように

バナナにプリン チーズむしパン
卵豆腐にゼリーに上巻き
それからかならず細めのうどん玉
ぼくがきつねうどんが好きだから

ガサガサというスーパーの袋の音
冷蔵庫のドアが何度か開閉
やがて小さな土鍋で粥を炊く音
メバルを煮る醤油の香り

具合の悪いぼくは子ども
運ばれた盆の上
立派なメバルとにらめっこ
骨を取ってとぼくは甘える

合うとか合わないとかではなく
語り尽くしたから言葉もいらず
いま何を考えているのか判らなくても
ぼくのために煮炊きするおまえに安堵

もっと恋していたかったんだろ
ロマンティックに愛したいだろ
現実のぼくはただの人
おまえが憧れた人ではないかもしれない

しかしぼくは覚えているよ
今生で最高の人なんて
大げさなことを言ってくれたね
今じゃ笑顔も見せてはくれないけれど

それでもぼくはあいかわらずの自信家だ
嫌いな奴に抱かれて感じる女はいない
それにメバルが出てくるかぎりは大丈夫
食べさせたいと思うこと それが愛だよ

※今生(こんじょう)……この世、現世

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