鳥 葬


チベットでは
死者の魂は
鳥によって空へ運ばれるという

かれらの土地では
死を逆らわずに受けいれて
命が終われば魂を返す
延命装置や臓器移植の論議もない

仏のみもとへ還るには
それを生業とする者が
鳥たちが食べやすいよう
頭皮を剥ぎ骨を砕き肉を切り刻む
渾身の力を込めて骸に斧を降りおろす

眠るように美しい死に顔や
きれいな身体のままでという
わたくしたちの国の美意識など
ここでは何の意味もない


作業する傍らに
鳥たちが三々五々やってくる
僧が吹く乾いた笛の音が響きわたると
さらに方々から禿鷲は群をなし
死者の真上を旋回する

魂を運ぶという重大な任務を
知ってか知らずかお構いもなく
かれらにすればおいしいご馳走
まだかまだかと待ちきれない
完全なる食物連鎖にも無関心

ヒトを消化し糞を落とし
種の保存を果たしたあと
命つきて大地へ還る
動植物はかれらの死骸を吸収し
ヒトがそれらを食して命をつなぐ

骨も遺らぬ死者の魂は
鳥とともに舞い上がり
かつて人間であった頃
憧れた空へと加速する
空へ空へ空へ空へ 天へ!


願わくばわたくしも
剥がれ砕かれ切り刻まれて
喰われ運ばれ
天とおぼしき空の涯てから
ゆるりと地上を俯瞰したい

高地チベットの
かぎりなく蒼い空の下
緑の山あいを縫うように
朱色の衣をまとった僧たちがゆく
今日もまた弔いの列がゆく

どこまでも空は高く
空は蒼く


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