彼女の一日


一日一ツ 胡桃を食べて
彼女は今日の命をつなぐ
食べるものはほかにない

することとて何もない
日がな空を眺めては
流れる雲を追う毎日
         かげろう
過ぎし日の想い出は陽炎
遠くでゆらめき
輪郭をのこすだけ
けれども彼女を歓ばせたり
懐かしさにほほえませたり


何も考えないように
何も聞かず語らずに
ただ息だけをするのです

幻聴はくり返す
それを聞くたび
不透明な瞳がうごく
        かげろう
過ぎし日の彼女は蜻蛉
遠くでさざめき
水辺を飛ぶだけ
けれども彼女を誇らせたり
儚さに涙をつたわせたり


深閑とした森の奥ふかく
胡桃が割れる乾いた音が
今日も一度だけひびく

一日一ツ 胡桃を食べて
あしたも彼女は命をつなぐ
なぜつなぐのかわからないまま


前の詩 次の詩

さみだれ詩集INDEX