犀星と枇杷


室生犀星が
こんな意味の詩を書いている

びわ
枇杷の実がなったから ある人に
お子さんをつれて取りにおいでと言ってあげたら
五人ばかり子どもをつれてやってきた

そしてその人は枇杷の実を
木を裸に剥いだように
一つのこらず採り去った

少しは犀星の家にも置いていくと思ったが
五升ほどもあるバスケットの枇杷の実を
一つのこらず笑いながら持ち去った

あとで家人が集まって
枇杷の木をさびしそうに見あげて言う
いくらなんでも
あんまりひどい人だ


読み終えて少しだけ笑った
鼻メガネの犀星の写真を思いうかべ
ほほえましいなと笑みがこぼれた

いかにもお人良しそうな犀星の人柄と
それを解せぬ人情のわからない知人との
人間性の対比が歴然として面白い

犀星はこのことを詩に詠い
訴えかけているのだから
よほど腹にすえかねたにちがいない

それでも その詩はやさしくあたたかい
善人ならば似たようなことを経験し
苦い思いを味わったことがあるはずだ

それにつけても
こんなことまで詩にしてしまう犀星は
やっぱり凄いと感心している私の右手は
さらさらこんなものを書いてしまった


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