黄泉の貴女へ


霊気のようなものを感じ
ふと見あげれば
蒼暗いなかにあなたは立ち
黙って私を見おろしていた

目だけがあいた白い仮面
長い黒髪を垂らしている
身につけた白いドレスの裾は
床のあたりでサラサラゆれた

驚きと恐怖で声が出ない
私は背を向け布団をかぶった
身の毛がよだつ
これが幽霊というものか


どうすればいいのだろう
恐怖で躯がちぢみ震える
そうだ 呪文を唱えるのだ
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

躯を丸めて歯を食いしばり
石のように硬くなった
その私を後ろから抱え込み
あなたは強い力を加えた

この世のものではない力に
抗い奪われまいとする
あなたは私を開かせようと
手首をつかみ引き剥がす


念仏が通じない
どうすればいいのだろう
このままでは連れ去られる
そのとき耳に声がとどいた

わたくしは くるしいのです
わたくしは くやしいのです
哀しげに切々とあなたが云う
聞いてほしいと訴えている

あの世から響いてくる声に
耳を傾けようとした時に
私を縛る強い力がゆるみ
あなたの姿は消えうせた


きっとあなたは苦しくつらく
悲しく口惜しくてたまらない
この人ならばわかってくれると
私の前に現れてくれたのですね

あなたの姿の美しさ
あなたの声の哀しさも
その手の意外な温かさ
その力のもつ畏ろしさすら

私を選んでくれたのだと
受け入れ解りたいと思う
やりばのない胸のうち
分かちあいたいと思う


心の準備はできていますよ
あの時間には起きています
今度は脅えずあなたの話を
ゆっくり聴けると思います


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