胃液


独りが好きだと云ってたじゃないか

顔も見たくないと云ってたじゃないか


せっかく書いていた手をとめ

夕食の準備もしなくてよくなり

緊張しながら目も合わさず

食卓で向き合わなくてもよくなった


病的な浪費癖に悩まされなくなり

モノもこれ以上ふえなくなった

風呂へ入れとせかすことも

手洗いを占領されることもなくなった


雨が降ると傘があるのかと

心配なんかしなくていいし

駅まで車で迎えに行くことも

何も何も必要がなくなった


思いどおりになったじゃないか

都合がよくなったじゃないか


そうかもしれない

「ありがとう 安らかに」と送ってさえいれば

胃の腑がねじれるような後悔の

苦い胃液に苛まれることさえないならば


胃壁を穿つ黄色い液体

吐き出せば悔い 濁って悔いの極彩色



前の詩 次の詩

さみだれ詩集INDEX