死ぬるなら

死ぬるなら 独りがよい
誰にも看取られず寂しかったろうという
人の憐れみは無用 独りがよい
死にゆく様なんぞ見られたいものか

願わくは先に死んだ男の造った机で
いつものごとく六Bの鉛筆にぎり
原稿用紙のマス目を埋めつつ
機嫌よく書いては消すうち突然こと切れ
昂揚したまま血気盛んに往くのがよい

また具合が悪いのかと老猫が頬を舐め
外へ出たいと若い猫は足にすり寄り
餌をくれとノラ猫たちは網戸を引っ掻く
猫よりほかいまわの際に寄り添う者なく
誰かが見つけたときには硬直した(むくろ)

わたしは男がいまわの際にあることを
ちっとも知らずつまらぬ用事で家を出た
彼が冷たく硬いことを翌日まで知らなかった
露ほども予知できなかったことの罪は重く
しかし彼もまた独りで往きたかったのか

死ぬるなら いつもと何ら変りなく
アジの開きや納豆を食べ
夕餉の片付けを済ませて風呂
鉛筆が走る音しか聞こえぬ真夜中
あと少しで仕上がる原稿を書いている時

今度は男でモノ書きでと
願う間もなく素早く昇天
夢をみたままそのまま解脱
死ぬるは独り 往生するは独りがよし





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