ただ狂え


ともに暮らした男が死のうと
私の命が終われるのでなく
その男の人生の幕が下りても
私の出番はもう一幕ある

居た者が此の世に居なくなるのは
悲しみ以外の何ものでもない
だが愛憎という言葉のとおり
背中あわせの感情は相殺できない

愛情と懐しさがこみあげる日と
憎しみと落胆ばかりの日は交互
彼の一生は何だったのかと考えこみ
情けなくなる日もあるのだけれど


だから
ただ書け ただ食え ただ眠れ
ただ読め ただ泣け ただ嗤え

彼岸と此岸に片方ずつ
足を踏んばり仁王立ち
いつ死のうともかまわない
そんなつもりでただ生きろ

ただ書け ただ食え ただ眠れ
ただ呑め ただ抱け ただ狂え

いつ死のうともかまわない
一期は夢よ ただ眠れ
一期は夢よ ただ狂え


※「一期は夢よ ただ狂え」
 「なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂え」
         『閑吟集』 1518年編より



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