「平成潮時考」(その6) 『2008.3』

 このシリーズものは前回から2ヶ月ほど間隔が空いてしまったが、ようやく結論が出たので今日でシリーズ最終回としたい。

スポーツ選手は体力と気力の限界を感じた時に引退を決意するというが、同じ理由で私もこのたび「平成道行考」を引退することにした。五年前と比べると体力は格段に落ちている。諸症状に悩まされて生活に制約がふえ、徐々に不自由になってきた。気力の方はどうかといえば、書くこと自体への衰えは感じていない。私にとって書くことは日常の食事やするべきこまごまとしたことと同様に、あたりまえのことになっている。しかし書く目的に若干の変化が生じている。ホームページで掲載するためだけに書くのではなく、また、見て(読んで)いただく手段としてインターネットではなく、本という形を中心にしたいと考えるようになってきた。

私は本好きな種類の人間である。ネット上で読めるものでも欲しい本は欲しい。だから図書館もほとんど利用しない。好きな本は手元に置いていつでも眺めたり読んだりしたいのだ。嬉しいことに私ごとき素人モノ書きにも、わずかばかりの熱心な支持者の皆さんがいる。それはほんのひと握りのかたがたであろうが、私にとっては大切な人びとである。そんな皆さんにとって、作品の出版化は喜んでいただけることではないかと思う。紙の香りや感触を愉しみつつ一枚ずつページを繰り、私の書いたものをじっくり読んでいただけるとすれば、それは考えただけで身震いするほどの歓びである。世に多く本は氾濫しているが、私がこの世を去ったあとも、ひと握りの人たちのそばで私の本が生き続けられたならそれは至福である。

今ひとつの引退する理由は、すでに述べたが今春よりふたたび、いや、みたび学生になるためである。私はそこそこ学問好きな種類の人間である。物理や化学や数学なら逃げ出すが、こと文学に関する勉強は苦にならない。喜々として学ぶであろう。レポート書きもテストもスクーリングも大歓迎だ。体力に不安が無いといえばウソになるが何とかなる。体調不良で履修に時間がかかっても、いつかは修了できるであろうと楽観的である。いま私は新しいランドセルを毎日眺め、入学する日を楽しみにしているピッカピカの一年生の気分で桜が咲くのを待っている。

道行考に話を戻そう。決断したはよいが気がかりなことがある。訪問者の皆さんには誠に申し訳なく思っているのだ。特に常連様においては私の拙い詩や文章、くだらぬ喋りにさえ一貫して惜しみない拍手をいただき心より感謝申しあげたい。これで一応の幕引きをするとなれば、皆さんは一抹の寂しさを感じられることであろう。だが、その皆さんこそ今後の私を応援してくださるのだと信じて疑わない。文章とはその人間の写し絵のようなもの、文には隠しようもなく書く人間の生き方や考え方が滲み出て溢れ出る。走り続けて燃料補給が必要となり、いったん筆を折ったとて支持者の皆さんは動じずに、写し絵が良きものになるやもしれぬと理解していただけるのではないであろうか。此処は一つ、人としてワンステップ昇ろうとしている右近の我がままを、目を細めて見守り、許してくださるようお頼みしたい。

では具体的なことについて考えたい。五年余りの間に書いたものの量は多い。コンテンツの多さだけは他のサイトにも引けを取らない。多ければよいというものではないが、とにかく多い。よくもまあ飽きもせず、こんなに書いたもんじゃわいと思う。これらは五年余りの私の人生の軌跡でもある。恋愛詩集などには書いてから十年を経たものも含まれ、目に触れると「若っ」「青っ」と赤面するようなものもあるが一応は辿った道である。サイト全体を見渡せば、恥ずかしげも無く言いたい放題、書きたい放題である。それはそれで血気盛んな過去の自分に気恥ずかしさと懐かしさがある。

愛着もひとしおのそんな道行考をバシッと閉じ、一瞬にして消してしまうには運営者として忍びない。それは支持者の皆様とて同じであろうか。そこでサイトをこのまましばらくは置いておく方向で考えている。私は不死鳥ではないから永久にとは約束できないが、当分は置いておくつもりである。リンクしていただいている皆様にも申し訳ないことであるし、水無月右近と「平成道行考」がネット上から無くなることも寂しいことだ。また更新がほとんど無くとも、サイトが存在することが何人かの皆様のお慰めになればそれも嬉しいことである。

いま私は「更新がほとんど無くとも」と言った。「まったく」ではなく「ほとんど」と言った。それは「ひとり言」への心残りからである。「ひとり言T」が100回を迎えたとき、めでたくこれで終了だと考えた。ところが「ひとり言」が終って寂しいというお声が届いた。単純右近はその声に奮起してUへと進み、続投を宣言したのであった。正直なところ、終ったばかりなのにまた100回書くのかと思うとクラクラした。けれどもUは「日常」と「思考」に分けてすぐにスタートし、現在「日常」がこれで35、「思考」が28である。それぞれが50になった時、めでたく100回を迎える訳である。武士に二言は無く、ここまで来たら初志貫徹、そこまでは書き続けようではないか。英米文学や仏教を学びながらも「ひとり言」くらいは書ける。なぜなら私こそが皆さんより“ひとり言好き”かも知れないほどに自ら楽しんで書くからである。

では今のところ、以下を決定事項としたい。

◎ 「平成道行考」の旅は五年四ヶ月をもって一応の終了とし、
  休眠状態に入る。

◎ ただし「ひとり言」のみ各50回まで不定期に更新をする。

◎ 「右近トーク」は今月末をもって終了する。

◎ 右近好きの皆様がお集まりの「右近メール」は今後も継続。
  これまでよりも回数をふやして皆さんと親睦を深める。

◎ 出版情報はサイト内「右近通信」にてお知らせする。

もともと道行考は恋愛詩と「ひとり言」のみのサイトであった。恋愛詩は今後は書けないかもしれないが、「ひとり言」なら書き続けられる。書くときは気分よく楽しく書くであろう。言うなれば、道行考の原点とは「水無月右近のひとり言」なのである。私の執筆活動の原点は、フィクションではなく本音を語る文章なのである。残すは3週間。悔いのないようにしっかりと書き、喋りたいものである。

風はまだ冷たいが春は近い。新しい旅立ちの春である。

2008年3月7日 

         
前の日常 次の日常

右近的 INDEXへ